勝負の7年。 iPS細胞は“研究成果”から“社会インフラ”になれるのか ― 自動化が切り拓く、再生医療製造の次なるフェーズ
2026.06.02
勝負の7年。iPS細胞は“研究成果”から“社会インフラ”になれるのか
― 自動化が切り拓く、再生医療製造の次なるフェーズ
iPS細胞が発見されて約20年。再生医療は今、研究成果を生み出す段階から、その成果を継続的に患者へ届ける仕組みを構築する段階へ移行しようとしている。
再生医療EXPO2026にて、(公財)京都大学iPS細胞研究財団 研究開発センター センター長 塚原正義氏は、「iPS細胞製造プロセス革新:自動化がもたらす品質と効率の向上」をテーマに講演を行った。
講演の中で印象的だった言葉の一つが、「今がスタートであり、これからの7年間が試されている」という認識だった。今年の3月に住友ファーマとクオリプスによる条件付き承認という成果が実現した。しかし、それは到達点ではない。本承認を獲得し、製造を成立させ、安定供給し、医療として定着する。
この7年で、iPS細胞は“未来の技術”のまま終わるのか、それとも“当たり前の医療”へ進化するのか。その分岐点に立っている。そして、その鍵を握るのが、製造プロセスの革新だった。
再生医療の次の壁は、「治療」ではなく「製造」にある
iPS細胞は、自身の細胞から多様な細胞へ分化できる技術として大きな期待を集めてきた。
一方で、臨床応用が進む中で、新たな現実も見えてきている。それは、良い細胞を作れることと、医療として届け続けられることは別問題であるということだ。
現在、多くの細胞製造はCPC(細胞加工施設)内で、人の手によって行われている。
その仕組みは高品質を支える一方で、
■人材依存
■製造のばらつき
■クリーン環境維持コスト
■作業負荷
■スケールの限界
といった構造的課題を抱える。
さらに、自家細胞(患者自身の細胞)を用いる場合は、患者ごとに状態が異なる。工業製品のように同じ条件で同じ品質を再現することは難しい。塚原氏は、この課題を乗り越えるために必要なのは、単なる効率化ではなく、製造の考え方そのものを変えることだと語った。
自動化の本質は、「閉鎖系」にある
講演の中で繰り返し語られたのが、「自動化自体が重要なのではない」という視点だった。重要なのは、閉鎖系(Closed System)であること。
閉鎖系とは、培養工程を外部環境から遮断し、無菌状態を維持しながら細胞製造を行う仕組みである。
その価値は、単なる省人化ではない。
【品質面】
■汚染リスク低減
■温度・ガス環境変動抑制
■人為ミス低減
【運用面】
■クリーンルーム要件緩和
■人件費低減
■同時製造数拡張
特に将来的に、再生医療を限られた研究施設ではなく、より広い医療現場へ展開していくなら、この思想は避けて通れない。“高度な施設へ患者が集まる医療”から、“必要な場所で製造・提供できる医療”へ。閉鎖系は、その転換を支える重要な基盤になる可能性がある。
自動化しても、まだ「判断」は人が担っている
一方で、自動化にも大きな壁がある。それが、インプロセスコントロール(製造中の状態監視と制御)だ。
現在は、
■pH
■乳酸濃度
■グルコース消費
■培養条件
などを取得することはできる。しかし、その情報を装置自身が理解し、
「今、培地交換すべきか」
「培養を継続すべきか」
「回収タイミングか」
を判断する段階には至っていない。
つまり現状は、モニタリングはできる。だが、フィードバックはまだ十分にできない。
ここに次の技術革新の余地がある。
AIは診断だけでなく、“製造”を変えるかもしれない
今回の講演では、AI活用の可能性にも触れられた。
ただ、その対象は診断支援ではない。
対象は「製造」だ。
例えば、
■作業映像の自動記録
■手順逸脱検知
■作業ログ生成
■培養状態予測
■条件最適化
■トレーサビリティ管理
細胞製造は、生命現象を扱う高度なプロセスであり、経験や勘への依存が少なくない。だからこそ、AIを活用して再現性を高めることができれば、研究成果をより広く社会へ届けられる可能性がある。塚原氏は、技術の完成を語るのではなく、むしろ「まだ課題が多い」と率直に共有した。そのうえで、共同研究、共同開発を通じて解決したいというメッセージを強く発信していた。
自費診療領域を考える読者へ
—再生医療は、未来の“選択肢”になり得るか
現時点で、自家iPS細胞を活用した治療が、美容医療やアンチエイジング領域に広く普及しているわけではない。安全性、品質、規制、コスト -越えるべき壁はまだ多い。
一方で、今回の講演では興味深い視点も示された。塚原氏は、細胞治療の先にある可能性として、アンチエイジングや、より個別化された医療への広がりにも触れた。自費診療はこれまでも、予防医療、機能改善、QOL向上、ウェルエイジングなど、保険診療だけでは応えきれないニーズに向き合いながら発展してきた。
もし将来、「細胞製造の標準化」「閉鎖系によるコスト低減」「AIによる品質管理」こうした基盤技術が整ったとき。再生医療は、一部の高度医療機関だけのものではなく、美容医療や自費診療領域に新たな可能性をもたらす存在になるかもしれない。
勝負の7年。
その時間をどう使うか。
それは、iPS細胞だけでなく、日本発の再生医療が“研究成果”から“社会インフラ”へ進化できるかを左右する7年になるのかもしれない。
このページに関するお問い合わせは自費研事務局までお願いします。
お問い合わせはこちら
自費研カタログ関連商品
自費研カタログ関連商品はありません
この商品の関連記事
関連記事はありません






Clipを上書きしてもよろしいですか?