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クルクミンに抗がん作用?飲む抗がん剤実用化を目指して 前編
2020.07.06
必ずしも不治の病ではなくなったものの、日本人の2人に1人が罹患するというがん。日頃から健康に高い意識をもっている医療従事者含め、誰にとっても身近なものです。がん治療につきまとう「つらい」「苦しい」という現状を変えるべく、クルクミン類似体から副作用の少ない抗がん剤開発を目指し研究に取り組む、奈良先端科学技術大学院大学の加藤順也教授にお話しを伺いました。
——加藤教授のご専門についてお聞かせください。
現在飲む抗がん剤の開発を目標にした研究を行っています。私は理学部(生物物理学専攻、理学博士)の出身で、いわゆるメディカルドクター(MD)ではありませんが、縁があって、長い間がん関係の基礎研究に取り組んできました。今でこそ農学部や工学部、理学部でもがん治療に結びつくような研究がなされていますが、私が学生だった頃は、理学部と医学部の研究が交わる機会は、非常に稀なものでした。医学部からは「あなたの研究分野ではないのでは?」と、理学部からは「医療の分野をやっているの?」と言われ、珍しがられたものです。
———もともと興味があってがん研究にたどり着いたのでしょうか。
受験の時点で、研究分野をひとつに絞れるほどにサイエンスを理解できている学生は少ないと思います。私自身もある程度の方向性はありましたが、様々な研究に触れ、見極めていった結果ががん、といったかんじでした。
大学院をでた後はアメリカの病院へ、がん細胞の細胞周期や増殖のメカニズムを調べる研究員として赴任しました。ここでも周りはMDばかりで、私の経歴(生物物理学出身)は珍しがられました。病院内の研究部門なので、研究結果がその後どのように治療と結びついていくのか、そのイメージを常に頭の隅において取り組まなければなりません。ここでの経験が、現在の私の研究に対する基本姿勢を作ってくれたのだと思います。がん細胞と正常細胞の違いをつきつめることから、がんに特異的に効果のある治療方法を探してきました。
——研究者という立場からご覧になって、標準/自費治療に対してお考えやイメージはありますか?
なにをもって標準/自費と捉えるのか難しいですが、保険適用かそうでないかという観点でお答えします。
自費治療と呼ばれるものには、大きく二つの種類があるのではないでしょうか。ひとつは現時点では未成熟な部分があるが、突き詰めていくことで今後標準となる可能性をもつもの。もうひとつは治療の性質などの理由から保険適用にはならないものの、その一方で患者さんからの需要を集めるものです。
抗がん剤の開発に携わっていると、標準治療として認められることの難しさを痛感します。専門機関の審査を経て、一定水準を超えているということで、ある程度治療の質が担保されているのが標準治療。しかし現在のがん治療の大きな柱である、手術や抗がん剤、放射線を用いた治療は副作用などの負担も大きく、体力的な問題で諦めざるを得ない方がいらっしゃるという現実もあります。
様々な観点から検討された結果「標準」とされているのですから、治療の第一選択肢であるべきだと思います。しかし、患者さんのQOL的な意味では、より良いものに変えていける可能性があるのではないでしょうか。
現状はがん治療や副作用のため、患者さんは社会から一時的に離脱しなければなりません。患者さん個人の心身の負担はもちろんのこと、社会全体で見ても大きな痛手です。がん治療がつらいものだという当たり前を変えられたらと思っています。
自然物を起源とするものは、比較的副作用が小さいと考えられています。現在取り組んでいる研究の原型となったクルクミンは、スパイスのターメリックの主成分として知られており、インドやインドネシアでは、アーユルヴェーダなど民間療法的な立ち位置で使われています。今日まで受け継がれてきたのは、なにかしらの効果が感じられるからだと思います。しかし現代の医学として、万人を納得させられるほどの作用機序やエビデンスを提示するには至っておらず、その点は自費治療にも通じる部分があるのかもしれません。
——クルクミンの研究に取り組まれるまでに、どのような経緯があったのでしょうか。
きっかけをくれたのは、インドネシアからの留学生でした。彼女は奈良先端大で学位を取得したEdy Meiyanto教授が所長を務めるガジャマダ大学のがん医療センターからやってきました。私自身他人から押し付けられるのがすきじゃないということもあり、学生たちには研究テーマを押し付けないと決めていますが、彼女が掲げた「クルクミン」というテーマに、当初は大きな成果を期待していませんでした。世の中とは厳しいもので、ぱっと思いついたテーマは、大抵が他の誰かが既に研究しており、「今さら新たな発見があるのだろうか」という気持ちがあったのです。しかし、調べていくとクルクミンに関する論文は沢山でているのに、その詳細な働きについては統一見解に至っていないことがわかったのです。
▲クルクミンには、抗炎症作用、抗菌作用などが報告されている。
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