第3回【本多 一貴 弁護士】「当院への名誉毀損だ!!」と思ったら―開示対象の見分け方―(前編)
2022.08.08
自費研online
弁護士 本多一貴先生の連載第3弾です。!
SNSを利用していて、自分のクリニックについて、これは酷いという書き込みを見つけたとします。ただ、「これはそもそも対処できるのか?」と悩んでしまって、放置してしまうのを今まで何度も見てきました。「ああ、これは投稿されてからすぐに相談してくれれば開示できたのに…。」と思うことも少なくありません。
そこで、今回は前編として、どのような内容なら開示可能であるか、名誉毀損を題材に、例を交えてお伝えできればと思います。名誉毀損は、病院と中で働く人の「いずれも」問題になります。
これはうちのことだ!-同定可能性―
「前提として、問題の投稿が特定人のことを指すことを一般読者の観点から読み取ることができる必要があります。ここでいう一般読者とは、およそ老若男女を指すのではなく、問題の投稿を見ることが想定される人の視点です。
たとえば、柔道を扱う雑誌で、「日本人オリンピック金メダリストの柔道選手は最強だ。」では、誰のことを指すか分かりません。しかし、「公式戦で200連勝以上して外国人選手相手に生涯無敗のまま引退した日本人オリンピック金メダリストの柔道選手は最強だ。」となると、上記雑誌の読者はある程度柔道に通じた人間が読むことが想定されるので、山下泰裕氏を指すことが分かるといった具合です。
名誉毀損について―「公然と」「事実を摘示」とは?―
前提として、名誉毀損が違法とされる根拠は、人の社会的評価を低下させることにあります。ゆえに、当該表現が人の社会的評価を低下させ得るかが開示可能性を判断する上でのメルクマールになります。
「公然と」とは、人の社会的評価が低下し得る状態、つまり伝播性を意味します。要するに、世間の不特定多数の人に広がる可能性がある状態という意味になります。たとえば、Twitterで投稿したり、Google口コミに投稿したりした場合、世界中の人に見られ得るので上記を満たします。逆に、ダイレクトメッセージなどでは、マンツーマンのやり取りになるため上記要件を満たしません。
次に「事実を摘示」ですが、以下の2つの違いが分かるでしょうか?いずれもXクリニックに対する名誉毀損が成立するかという話とします。
①Xクリニックは、厚労省未認可の薬物を使用している。
②Xクリニックは、患者の治療をしているが、倫理を欠いた人体実験に等しい。
名誉毀損は、一般読者の注意を基準として、社会的評価を低下させ得る表現について、証拠によってその有無を判別可能かどうかによって分類されます。なお、上記「一般読者の注意」とは前後の文脈や対象読者の前提知識も考慮します。
まず、①では、「厚労省未認可の薬物を使用している」部分が問題になりますが、当該表現の存否は証拠の有無によって判断できます。一方、②は、「倫理を欠いた人体実験に等しい」の部分が問題になりますが、当該表現の存否は証拠の有無では判断できません。
この①を事実摘示型といい、②を意見論評型の名誉毀損といいます。①については、問題の表現が虚偽であると合理的に証拠で示せばいいのですが、②については当該表現が人身攻撃等論評の域を逸脱していることまで要求されます。
私の経験では②と判断されてしまうと、開示がかなり厳しくなってしまう印象です。ですので、基本的なスタンスとしては、①に沿って、客観的証拠で存否を判断可能な表現について開示を求めるのが無難です。
まとめ
今回のことをまとめると、名誉棄損によって開示可能か判断するためには、以下のことをチェックすればよいことになります。
①一般読者を基準にして、問題の表現が誰のことを言及しているか分かること
②不特定多数の人が閲覧する状況で当該表現がされたこと
③当該表現の存否が、客観的な証拠によって判断可能であること
④たとえ当該表現の存否を証拠で判断不可能でも、論評の域を逸脱したものであること
後半では、発信者情報開示の段階で必要な「違法性阻却事由の不存在」について、お伝えするとともに、どのような証拠をご用意すれば紹介できたらと思います。
弁護士 本多 一貴(ほんだ かずたか)先生
【学歴】
東京大学法学部
司法試験予備試験合格
‐‐‐
昭和63年茨城県生まれ。
大学時代、授業を担当していた大学の先輩弁護士の何気ない勧めで、国家公務員から弁護士志望に。現在の事務所にて初めて触れた発信者情報開示請求に携わるうちに、インターネットの誹謗中傷及びレピュテーションマネジメントに興味を抱く。現在はTwitter、Instagram、グーグル口コミ及びその他掲示板等の発信者情報開示請求及び削除請求に関与。インターネット問題のほか、労働事件及び一般民事事件(貸金返還請求や委任契約に基づく報酬支払請求等)も取り扱う。
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