【第一回】 腸が重要な臓器となる理由(わけ) 人類は腸管から進化してきた
2018.05.10
腸内細菌・腸内環境の研究に着手したきっかけを起点に、常に生き物の原点を見据え、豊富なご経験を踏まえた目線で「これからの医師に求められる必要な視点」に到るまでの話を本領域の第一人者である藤田先生に語っていただいた。
寄生虫や腸内環境を研究するようになったのは、整形外科医で大学柔道部の顧問をしていた当時、のちに大学の学長でもあった熱帯医学の教授から「柔道部員の中でインドネシアのカリマンタン島に同行する荷物持ちを探しておくように」言われていたのを忘れていましてね。出発前日に教授から「荷物持ちを探したか」と訊かれた後、候補者を見つけていなかったことを怒られ、急遽、私が荷物持ちとして同行することになったのです。
訪れたカリマンタン島は、ウンコが流れている川で住民が水浴びや洗濯、歯磨きまでするようなところで、到着当初は早く帰りたい一心で過ごしていました。島の人達はみな回虫に感染していましたが、不思議と生活習慣病もなければ、アレルギーや腸管感染症もありませんでした。当時、カリマンタン島のウンコが流れている川と都市部のジャカルタの上水道を比べたところ、見た目には汚く見えるカリマンタン島の川の方が大腸菌は少なかったのです。実際、上水道のあるジャカルタではA型肝炎やコレラ、チフスの感染例が多かったのに対し、カリマンタン島ではそのような感染症例が少ないことがわかりました。この事例を踏まえて調べたところ、インドネシアに限らず世界中を見渡してもウンコが流れているような川のある地域で暮らす子供たちには全員、寄生虫はいましたが、アトピー性皮膚炎や喘息、アレルギー疾患になる子供はいないことが判明しました。
私は回虫にアレルギーを抑制する因子があるという研究論文をまとめ、その論文はScience誌に掲載されましたが、日本では評価はされず、むしろ批判の方が多かったのです。
次第に日本国内から回虫やサナダ虫もいなくなり、研究対象がいなくなってしまいました。寄生虫を研究している頃から人の便を見てきた過程を踏まえて腸内で寄生虫と同じ役割を担っているのは、腸内細菌であろうと考えました。このときから腸内細菌の働きを知り、腸内細菌・腸内環境それぞれの研究をしていくようになったのです。
このような経緯で研究をしてきた過程でわかった国内における2つのデータをご紹介しておきます。
前述したようなウンコが流れる見た目の汚い川では、人体の中で他の菌が病原菌の増殖を抑制していたように、大阪府堺市の病原性大腸菌O-157の集団感染があった当時、小学生の便を調べると30%の子供は不顕性感染でした。中でも10%の子供は入院するほど重症化しました。この重症化したお子さんの家族構成を調べると戸建てに暮らす第一子が多く、腸内細菌が少ないことがわかりました。結果として清潔好きなご家庭のお子さんの方が重症化していたのです。
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